アルマスギャラリーでは、野村和弘の個展「ドット・ペインティング」を開催します。
彫刻や絵画、映像など多岐にわたる表現を行って来た野村和弘の
代表的な絵画シリーズの展示となります。
厳密なルールのもとで、視覚を試されるような微細なドットにより描かれた果樹は、
配置される色点の位置により無数のバリエーションを持ちます。
同シリーズの作品は、千葉市美術館といわき市立美術館に収蔵されています。
久しく展示されていなかった絵画シリーズをご覧いただける機会になると思います。
作品について、以下の2つのテキストが作家よりとどきましたので、ぜひご参照ください。
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野村和弘
ドット・ペインティング
このシリーズの作品すべてに同一の図像が描かれていて、それは赤76個、黒84個、黄87個、オレンジ112個、緑262個、総数621個のごく小さな色点(1mも離れれば、背景にかき消されて見えなくなる)によって構成されている。また、それらの色点は、離れすぎず、かつくっ付いて見えない程度の、格子点上に展開される(タブロー形式の作品のドット・ピッチは、2.5mm)。
その図像のモチーフは、1本のまっすぐ上に伸びた茎から、左右3本づつ計6本に分かれた円弧状にしなった枝の先に、トマト、オレンジ、レモンの実2つづつ(茎を挟んで、左右ともに、上、中、下と一種類づつ3つの実、向かって右側上からレモン、オレンジ、トマト、同じく左側トマト、オレンジ、レモン)が、たわわに実った植物である。
このモチーフの原型は、ドイツ・デュッセルドルフ市下町、集合住宅の出窓に発見された。アジア出だろう。上の図像に、茶色の植木鉢を加え、枝からぶら下がった実を一種類にして(少なくとも、トマト、オレンジ、レモン、リンゴだけの鉢植えが存在した)、シンメトリー度をさらに上げることからイメージされる、キッチュな、それでいて祭事色も隠せない、塩化ビニル製の自立したオブジェ(約30cm)。
下地レベルの作品を前にして、この図像の上下、左右いずれかの半分が選ばれる(上半分、下半分、左半分、右半分かの4つの選択肢。選ぶ基準については、気分によって、と言うしかないだろう)。選ばれなかった半分では、トマトを構成する点は赤、というように、オレンジ、レモンもその固有色、オレンジ、黄を使用。ゆえに、茎、枝は緑。しかし、選ばれた半分では、その固有色の支配から解放され、マーブル状の色点の配置(たとえば、トマトの、赤であるべき色点の位置に、黒、黄、オレンジ、緑の色点が混入するというように)も、その都度、任意に決定して進められる。
中の見えない箱に手を入れて、カラーボールを取り出す場合(ただし、一度出されたボールは戻さない)と同じく、総数が決まっていて、色の種類も、それらが含まれる割合も変化しないという条件下で、運任せに。もし、左半分が選ばれたなら、いつも赤42個、黒32個、黄33個、オレンジ42個、緑121個の色点が、点の置かれる位置は維持されたままに、その中でランダムに配置される(確率的には、同じ作品、色点すべてが同じく位置した、が現れるとは、言いがたいだろう。それぞれのタイトル?名前?には、通し番号が与えられている)。
下段に並んだ数字は、この画面上に存在する色点の総数を、それを示すに必要な色点の数も合わせて、色別に表示したもの。これは、半分の法則が適用されず、すべての作品において同一である。
実の中に見えるアルファベットは、それぞのイニシャル、トマトーT、オレンジーO、レモンーZ(=Zitrone、ドイツ語)。選ばれなかった半分では、黒の色点が当てられた。
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エヴァは何回リンゴを食べる?
この、白い下地が施されたキャンバスに、5色のドットで描かれたタブロー形式の作品、のみならず、ドローイング形式(紙、及びトレーシング・ペーパーの上に)、壁画形式(壁面に、ダイレクトに)と、ドット・ペインティングの作品には、1989年に始められた当初、「Wie oft isst Eva den Apfel?」(ドイツ語。日本語では、上の表題と同じ)が、そのタイトルに加えられていた。
まず「Wie oft isst Eva den Apfel?」、続いて通し番号。ちなみに、赤、緑下地の作品も、それぞれ8点、1点づつ作られている(赤い下地では、当然として、赤の色点は見えなくなってしまう)。タブロー、ドローイング形式は、260×195mm(前者は、×30mm)、壁画形式は、1310×990mm(ドット・ピッチ、10mm)。合わせて500点作ることが、目標とされた。
私の場合、他にも女性に関する作品の多くあることが、指摘されそうだ(確かに、リカちゃん人形やスカート、片方の、イヤリングと女性靴を使ったり、また女性の名前がタイトルの作品、男性の名前を女性名に変換したもの、女性のバストを扱った作品などが存在している )。それでも、女性を特別に崇拝しているから、というわけでもないのだろう。私の性別は男性であり、そういう意味では、隔てられた存在、他者ということの言い換えなのかも知れない(他のどんなものを持ってくれば、適当だったのか?また、もう一つ指摘しておくなら、私のインスタレーション作品に臨んで、もっと若い作家のイメージ、つまり年齢の、また加えて性別と国籍の、不詳性に言及されることが何度となくあった。私も、驚かされたことに)。ゆえに、実際の女性ということでもなく、そうした存在への憧れの中に働いてきたはずなのである(私を女性崇拝者と呼ぶとすれば、その女性へと身を変えることこそが、焦燥とされた、と言いえるに違いない)。
たとえ私の中にあったものだとしても、それに初めて対面する時、ゆえにそれはまだ私の知らないものでしかなく、他者との遭遇としてしか捉えられないのではないか?何か、奇妙なものが現れた。少なくとも、私から来た、などとは決して思えない(すぐにそう思えるのなら、それは他者ではないはずだ。演出された、既知の?)。他者とは、外からしか、それもいきなりとしてしか、登場できないものなのではないのか?漁に出た船に、トビウオが飛び込んでくる、あるいは出会い頭の交通事故のように。
そのリンゴと、冠詞がついていることは、あのエデンでの知恵の実そのもの、を当然指し示すとしても(エヴァが出てくる以上、どうしてもだろう)、楽園からの追放、つまり人間のおかれた状況の大きな変化というように、人間の生き方自体の変革という事柄にまで言及させるということ、そのリンゴを食べるという行為が、今までの変革全体を網羅し、代表させるということをも可能にしてくれるはずである。エヴァは何回リンゴを食べる?これから、も?これは、未来への、挑戦する言葉にも他ならない。また、それをまだ締めてはいないということの確認でも?そして、そのリンゴを食べるのは、他者たる女性、エヴァでなければならなかった(彼女となれば、初めてそのリンゴを食べることができる)。エヴァは、その変革をもたらせる人間の集合名となる。
その他者は、人を片輪へと誘う。
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日時:2018年7月14日(土)~8月4日(土)、9月7日(土)~9月29日(土) 12:00-19:00
金/土/日のみオープンとなります
opening reception 7月14日(土)18:00-20:00
野村和弘 Kazuhiro Nomura__________________________________________________
1958年 高知県生まれ
1979年 東京芸術大学美術学部絵画科油画専攻入学
1988年 同大学美術学部油画後期博士課程を満期退学後、ドイツ学術交流会(DAAD)奨学生として渡独
1990年 デュッセルドルフ美術アカデミーにて学位(Meister schueler)取得
1993年 帰国、神奈川県在住
[主な発表歴(2010年以降 *印は個展)]
2017年 「イヤリングと葡萄」* void+ 東京
「女性靴とボタン」* gallery21yo-j 東京
「片目」* ガレリア フィナルテ 愛知
2016年 「六本木クロッシング 」 森美術館 東京
2015年 「笑う祭壇2出版記念」*+「赤のコルパー」 TIME & STYLE MIDTOWN 東京
「富士ゼロックス版画コレクション コピー・アートの時代」 Fuji Xerox Art space 神奈川
「春を待ちながら」 十和田市現代美術館 青森
2014年 「笑う祭壇」* gallery21yo-j 東京
「0.5出版記念」*+「黒の拡大」* TIME & STYLE MIDTOWN 東京
2013年 「LVRF3」 カスヤの森現代美術館 神奈川+TIME & STYLE MIDTOWN 東京
「frances」* 秋山画廊 東京。
* カスヤの森現代美術館 神奈川
2012年 「 現代絵画のいま」 兵庫県立美術館 兵庫
「1、2、3(Little Girl Popular Edition)出版記念」* void+ 東京
2011年 「simple things」 名古屋市民ギャラリー矢田 愛知
2010年 「野村和弘/東島毅 みることをかんがえる」 いわき市立美術館 福島
「City Beats + Live Explosions」 Bank ART studio NYK 神奈川
[コレクション]
千葉市美術館
富士ゼロックス
いわき市立美術館