犬、石、物、語り(上巻)

西村有未

2022年8月20日(土) - 9月24日(土) 金/土/日のみオープン 12:00-19:00

アルマスギャラリーでは、8月20日から西村有未による個展を開催します。

西村有未は、昔話などに登場する人物を出発点とした絵画を描いています。
昔話などの物語において、話を進めるために描写されず、ないがしろにされた登場人物の心情や
動作、音声などを考え想像することからイメージを得て、絵の具の垂れる/散らす/固体になると
いったさまざまな物質性を用いて、起こったかもしれない出来事を絵画として顕現させるような
制作をおこなっています。
一方で西村は、「欠落した描写に対応する挿絵を描きたい訳ではない。最終目的は、
依代となる元の物語を乗り越えた、別の何かへと絵画を変容させる事にある。」と話します。

完成した絵画は、物語の一場面を具体的に見渡せるものというよりは、
確実に何かが描かれているが、掴みきれない感覚を覚えるものです。
そこにはさまざまな確固たる物質性がひしめき、絵の具の層に畳み込まれたいささか不穏な
気配が感じ取れるようです。

東京では6年ぶりの個展となります。ぜひご覧ください。

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私は、「図形的登場人物」という題材をきっかけに、制作を行っています。
では、「図形的登場人物」とは、一体どの様な存在なのでしょうか。

架空の物語について。
とりわけ昔話を読んでいると、語られるはずの、在るはずの「何か」が、
排されていることに気がつきます。
例えば、いくつかの昔話において、様々な事情から犬が石になる物語の型がありますが、
そこでは大抵、犬が石になる過程やその際に発せられたかもしれない声・表情・内情が
全くと言っていいほど描かれていません。つまり、ここでは心身の描写が、おざなりなのです。

このように昔話には、本来描かれていてもおかしくない描写が、登場人物から欠落しています。
(正確には、今回は登場「犬」なのですが…。)
あるいは、そのような描写をまるで行間へとしまってしまうような態度、とも言えるでしょう。
何故なら、昔話は話の筋を何より優先するからです。
民間伝承文学の研究者であるマックス・リュティ氏は、
上述のように、個体としての描写や感情表現を無視もしくは省かれてしまった存在を
「図形的登場人物」(小澤俊夫氏の日本語訳)と呼んでいます。
ここまで読むと、「図形」がどのような比喩なのか、大体察しが付くかと思います。
そうです。昔話の登場人物たちは、物語を進めるための簡易的に扱われる、
図形のような存在なのです。

ここで、注意したい点があります。
私は登場人物から欠落した説明を補う為の、いわば挿絵としての絵画を制作目的にしていない、
と言うことです。要するに、図形的登場人物との出会いから得た「言語化したくない感覚」が、
制作のモチベーションとなっているのです。
また、全作品とは言い切れませんが、基本的には物語から得たイメージと物質性を強調した絵具を、
画面上でぶつけ合わせることが重要な課題となります。少しずつ物語のイメージを損なわせつつ、
絵具や描画材自体の存在感を高めていくのです。
何故このような描き方をするのか。それは、物語画が退行していき、物語の手前にある
「ただ起こっただけの出来事」へと引き戻されていくような感覚を作りたいという欲求があるからです。
「何かが起こっているようだけれども、それが何かは明確にはわからない。」、
そのような画面状況を作るために、イメージと物質の間でまるで綱引きをするかのように、
理想とするバランスを探っていきます。

そして、そこから新たに何が生まれるのか?
私は、これを見届け続けたいと考えています。
 
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西村有未  Yumi Nishimura_______________________________________

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[学歴]
2019年 京都市立芸術大学大学院美術研究科博士(後期)課程美術専攻 研究領域(油画) 修了

[個展]
2012年 「毛わらと油」美術出版社ビューイングスペース(東京)
2013年 「TWS-Emerging2013:例えば祖父まで、もしくは私まで。こんもり出現」TWS本郷(東京)
2016年 「From light houses vol.1 yumi nishimura」MOONDUST(東京)
2018年 「描き続け 為に(物語から絵肌へ、絵肌から物語へ。その繰り返し)」神奈川県立相模湖交流センター(神奈川)
2020年 「図形的登場人物(雪娘)と望春の花」FINCH ARTS(京都)

[グループ展]
2010年 「現役美大生の現代美術展 -Produced by X氏 」Kaikai Kiki gallery, Hidari Zingaro(東京)
2012年 「 トーキョーワンダーウォール2012」 東京都現代美術館(東京)
2014年 「三菱商事アート・ゲート・プログラム2013年度奨学生作品展」EYE OF GYRE (東京)
2016年 「第3回CAF賞入選作品展」3331 Arts Chiyoda(東京)
2016年 「CAF ART AWARD Selected Group Exhibition」HOTEL ANTEROOM KYOTO | GALLERY9.5(京都)
2019年 「PIE314 FOR MAKE WORKS 」ON MAY FOURTH(東京)
2021年 「絵画の見かた reprise」√K Contemporary(東京)
2021年 「Encounters in Parallel」ANB Tokyo(東京)
2021年 「猫とマチエール」MtK Contemporary Art(京都)

[コレクション]
山梨学院大学
高橋龍太郎コレクション

[ワークショップ]
2019年 練馬区立美術館

[賞ほか]
三菱商事アートゲートプログラム2013 奨学生
第3回CAF賞保坂健二朗賞